正男ちゃんの本箱

正男ちゃんと呼んでくれるのも今はもう父方の甥と姪のふたりだけ、で命名してみた。

ぐい飲み

 20数年ほど前の一時期ぐい飲みの収集をしたことがある。旅の記念によく買つたりした。猪口より大振りで姿・形の格好のいいものが多い。地元の有名無名の陶芸家が好んで作陶するからだろう。飲んべいにはやや多めに酒が入るし、誰が付けた名かぐい飲みとは心地よい響きがする。備前焼の酒器ひと揃いなど欲しかつたが高価でご縁はなかつた。

 その後ある陶芸クラブでまだ轆轤を使わせてもらえない頃、自作のぐい飲みを作りたいと思つて出来たのが下のぐい飲み。釉薬の気まぐれのお陰で曾て遊んだ西安城外の赤い砂漠に上弦の月が上がつたように見える。銘は密かに唐の詩人李白の子夜呉歌にあやかつて「長安一片の月」とした。親指と人指指と中指とで軽く挟み、底を薬指で支えるとピタリと右の手に収まる。酒器自らの重みとなみなみと注がれる酒の重みとが重なつて手に快い。厚くなく薄くなく唇に当てた感じも佳い。いつも晩酌に侍るのはこの「長安一片の月」。いつかぐい飲み漁りも奈良焼きを最後に沙汰止みになつた。

 

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